ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか?
防府ウィンドシンフォニーは、ひさしぶりに練習お休みでした
というわけで今回は新曲!のお知らせです
第1回演奏会(自主公演)に向けての候補曲が、5月から1曲増えます
ジャズのスタンダード曲として誰でも耳にしたことのあるこの曲は、デューク・エリントン楽団の代表曲でもあります
1941年の曲なのでもう80年も前の曲になりますが、アメリカがもっとも良かった時代のワクワク感がにじみ出てる曲調はちっとも古臭くないです
半音階を多く含むフレーズやコード進行、斬新な転調など、いろんな要素が無駄なくギュッと詰まっていて、深みもあって21世紀の今でも色褪せません
「A列車」って何なん?
ってことですが、ニューヨーク市地下鉄(1904年開業)の
「A系統の列車(ブルックリン東地区〜ハーレム〜マンハッタン北部、を通る急行)」
のことだそうで、
「ジャズクラブやダンスホールのあるハーレムに行くなら、先頭に『A』って目印のある列車に乗ってね」
って意味の「A列車」のようです

日本で言えば東京メトロ銀座線(1927年開業)みたいなもんでしょうか
JR九州の豪華列車や、ゲームのネーミングにも使われています
1930年代〜1940年代のアメリカはスウィングジャズ全盛期で、いくつものビッグバンドが人気を競い合っていました
夜にお酒を飲んで踊れる場所で、生演奏の豪華編成バンドが持てはやされたのです
カウント・ベイシー、ベニー・グッドマン、グレン・ミラー、スタン・ケントン、他にもたくさんの楽団がしのぎを削っていましたが、(20名弱とは言え)大所帯のメンバーを常に要する形態はだんだん衰退していきます
ミュージシャンは気まぐれで自由を愛するので、決まった時間に人数がちゃんと集まらないといけないスタイルは、さぞかしトラブルも多かったことでしょう
品行方正(で変わり者)なイメージのクラシック音楽の演奏家だって中身は自由人ですので、もともと自由への精神から生まれたジャズを演奏する人が、大人数の楽団に合わないのは何となくわかります

ビッグバンドの盛衰には1920年〜1933年の「禁酒法(アメリカではお酒が法律で禁止されたのです)」や、1930年代の世界恐慌、1939年〜1945年の第2次世界大戦も多く影響しています(なんか社会の授業みたいになってきたぞ)
コロナによる飲食店の時短営業や酒類提供の自粛要請とカブりますね
その後ジャズはもっと小編成で個々の芸術性を高めた演奏によって1960年前後にピークを迎えますが、より大衆性を意識した商業音楽の台頭で下火になり、今では地味に(ですが確実に)存在し続けている感じです
「アメリカから来たものはロクなものがない」と言う人がいるのはうなずける部分もありますが、ジャズはアメリカが生んだ偉大な音楽です
数十年という短期間で芸術と言える領域にまで昇華しました

クラシックやジャズやロックを
「もう死んだ音楽」
と言うような人も結構いて、わからなくもありませんがちょっとネガティヴすぎる発想のような気もします
それを言うならヒップホップが今まさに死にかけている(もう死んだ?)音楽と、言えなくもないです
吹奏楽のポップス曲の楽譜は今では山ほど出版されていますが、以前はあまりありませんでした
もともと野外で演奏する軍楽隊から発展してきた演奏形態なので、行進曲や時々オーケストラの曲を吹奏楽用に編曲したものをやるのが中心でした
歌謡曲などの吹奏楽用の楽譜を多く扱う出版社「ミュージックエイト社」が設立されたのは1965年だそうです

他にもポップス曲の本格的な編曲を、録音(レコード→CD)と楽譜の両方で毎年発売している「ニューサウンズインブラス」のシリーズは、1972年に始まったようです
吹奏楽が今のように日本で盛んになったのは、実はこういったポップス曲の楽譜の出版(と、吹奏楽コンクール)がかなり大きく影響していると思います
フツーの人が聴くと退屈でしかなかった吹奏楽が、ポップス曲の演奏が増えてイメージが変わって、どんどん市民権を得ていったのです
「えー!自分の好きなアイドルの曲を吹奏楽部がやってるやん。しかも生演奏で中学生が。おもろー」
てな感じで、そりゃインパクトあるし、ちょっと吹奏楽に興味持ちますよね
吹奏楽でポップス曲を演奏するスタイルは海外でも高く評価されていて、昔のニューサウンズインブラスの楽譜で日本では絶版になっているものが、オランダの出版社から現在出ているものもあったりします

クラシックよりもJポップやアニメソングを演奏した方が万人受けするのは当たり前で、吹奏楽部の人でもクラシック曲より、そういったポップス曲、ミュージカルや映画音楽の演奏を聴いて「いいな」と思って楽器を始めた人がたくさんいます
ジャズは大衆音楽の先祖(元祖ポップス)とも言える音楽ですが、デューク・エリントンの音楽は酒場で踊る人たち向けのただのBGMなどではなくて、かなりの芸術性を秘めた曲でもあります
世界的に評価の高い作曲家の武満 徹(1930〜1996)は、ロックフェラー財団の招聘でアメリカに留学する際、申請書類の師事したい作曲家に
「デューク・エリントン」
と書いたのですが、冗談と捉えられて実現しなかったそうです
大マジで書いたと思うのですが、
「クラシック音楽の偉い先生(作曲家)が、たくさんいるのに??」
と思われてしまったようです

日本ではジャズを悪く言う人はあまりいないように見えますが、一般的なイメージは
「なんかおしゃれだよねー」
とか
「バーで流れてる音楽、って感じ」
もっと言うと
「おっさん(か、おじいさん)が好む、敷居の高い音楽」
「こむずかしい(よくわからん)」
ぐらいが本音でしょうか
実際、クラシックもジャズも、どんどん洗練されすぎて難解になって、受け入れられなくなったような気がします
防府市にあるスーパー「アルク」では、お店のBGMにいつもハード・バップ(全盛期の本格的なジャズ)が流れていて、メイン客の主婦層とはかけ離れていて、なんだかシュールな空気が店内に漂っています
著作権が切れた音源(無料で使える)だからBGMとして使っているのか?スーパーの上層部にジャズ好きでもいるのか? 謎です

下関市では、ずーっとスーザのマーチがエンドレスで大きめの音で流れているスーパーがあって(スーパー好きかっ)、もし従業員だったらさすがにキツイなー、と思ったことがあります
店内のBGMによって、売り上げが30%以上も変わる、という検証もあるので、けっこう奥の深い話なのかもしれません
クラシックやジャズは時々プチブームみたいなのが起きます
普遍的に魅力ある音楽なので、何かきっかけがあると急に関心が集まったりするのです
2004年の映画「スウィングガールズ」の頃は、吹奏楽部でもジャズをやることが多くありました
ミュージックエイト社から2005年に出版された「Let’s Swing !!(レッツ・スウィング!!)」は、スウィングガールズの中で使われた3曲がメドレーになっていて、編曲の内容が良い(難易度低めで演奏しやすいけど聴き映えする)のもあって今でもよく演奏されています
Let’s Swing !!には入っていませんが「A列車で行こう」もスウィングガールズの中で使われています
今回購入した楽譜は、ロケットミュージック社から「ゴールドポップ」というシリーズが2009年に初めて出版された時のものです
編曲が素晴らしいです
内堀 勝さんという方の編曲なのですが、吹奏楽の編曲は過去に7曲ほどされているようです
内堀 勝さんのホームページ↓
http://musac.jp/index.php?FrontPage
ビッグバンドの通常の編成は、
サックス 5人
トランペット 4人
トロンボーン 4人
ピアノ
ベース
ドラム
くらいが基本で、それにギター、(ドラム以外の)パーカッション、クラリネットが加わることもあります
吹奏楽の大人数に比べると、ちっとも「ビッグ」じゃないですね

吹奏楽の中にある楽器と重なる部分が多いのと、小編成のジャズコンボよりもアドリブ要素が少なく、コードだけではなくて音符として書かれている音も多いので、吹奏楽とは親和性のある音楽(編成)と言えます
と言ってもやはりジャズやポップスを吹奏楽でやると、どうしてもフルート、クラリネット、ホルン、ユーフォニアム、あたりは活躍することが少なくなります
その辺りまで配慮された、聴いて良くて、演奏しても良い、という編曲の楽譜は、現在でもなかなかないのが実情です

ホルン(フレンチホルン)はジャズのソロ楽器として使われることはほとんどありませんが、編成が大きい場合や実験的に、時々編成に入ることがあります
マイルス・デイヴィスの1957年の記念碑的なアルバム「Birth of Cool(クールの誕生)」には、フレンチホルンやテューバが編成に入っています
他にもギル・エヴァンスの楽団でホルンが使われたり、進歩的なスタイルを目指していたスタン・ケントン楽団では「メロフォニウム(Mellophonium)」という、マーチング・ホルンのようなF管の楽器が通常編成の中に(4人も!)含まれることがありました

「A列車で行こう」は有名曲なので、当然過去に吹奏楽に編曲されたことがありますが、もっとも演奏されることの多かったニューサウンズインブラスの岩井 直薄さんの古い編曲は、内容的に今となっては物足りなく感じます
(岩井 直薄さんは吹奏楽のポップスにもっとも貢献された編曲者です)
この内堀 勝さん編曲の「A列車で行こう」は、ベースラインが主役のイントロで始まって、木管楽器の細かいフレーズで彩りが添えてあったり、ソロがいくつかの楽器で演奏できるように(わざわざin C、in B、in Esで)柔軟に書かれてあったりと、素晴らしい部分がたくさんあります
このような素晴らしい編曲が増えると「吹奏楽のポップスってダサいよねー」という声も少しずつ減ってくるのではと思います(演奏がダサいと台無しですが…)
難易度高めの編曲ですが、濃い内容で飽きが来ずじっくり練習できるので、仕上げていくのが楽しみです

防府ウィンドシンフォニーの第1回コンサート(そろそろ現実味を帯びてきたかな?)は、クラシック曲とポップス曲を半分ずつくらいでやる予定です
ポップス曲は1曲の演奏時間が短いので、曲数的にはポップス曲の方が多くなります
吹奏楽の世界ではポップスは「おまけ」的な扱いだったり、クラシックよりも「下に」見られていることが多いです
ジャズ、ポップスのリズムやアーティキュレーションを教えられる指導者や指揮者がほとんどいないのも理由の一つですが、ジャズ、ポップスも奥が深くて、本格的に演奏すれば(吹奏楽でやっても)素晴らしくカッコ良くて魅力的な音楽になりえます

次の練習日、5月9日(日)に楽譜を配って「A列車を初見で行こう!」をやりますので、メンバーのみなさまはお楽しみに
楽団に興味のある方、見学にもどしどしお越しくださーい♪
