見学者のトランペット奏者さんがベッソンのコルネットを持って来られました
「コルネットとトランペットって、どう違うの?」
と思われる方は多いですが、出てくる音はそんなに変わりません
演奏する人による音の違いの方が大きいくらいです
よく、
「いや、そもそもコルネットはサクソルン属の楽器で、トランペットとは楽器としての出自が…どうのこうの……」
などと本で読んだような知識を語る人がいますが、そんな話を聞かされても、
「だから?」
あまり質問の答えにはなってないです
誤解を恐れずにざっくり言うと
「コルネットの方がほんの少し柔らかい音が出る、かも…」
くらいの違いしかないです
「いや、ブリティッシュスタイル(英国式)のブラスバンド(金管バンド)のコルネットの音は、トランペットとはまったく違う」
とか言い返されそうです
1996年の映画「ブラス!」でちょっとだけ世間に知られるようになった「ブラスバンド」ですが、
吹奏楽と違って金管楽器と打楽器のみで編成される、イギリスで特に盛んな楽団のスタイルです
(日本では吹奏楽のことを「ブラスバンド」と言うことも多いので、ややこしいです)
トランペットと(フレンチ)ホルンは入らなくて、
コルネット(とEsコルネット )、
フリューゲルホルン、
テナーホーン(アルトホルン)、
バリトン(バリトンホルン)、
トロンボーン(とバストロンボーン)、
ユーフォニアム、
E♭バス(Es管のテューバ)、
B♭バス(B管のテューバ)、
パーカッション、
総勢28名前後で演奏されることが多いです
()をたくさん使わないと正確に伝わらないもどかしさ…
イギリス人のブラスバンドでの演奏スタイルは、細かいヴィブラートを多用して、コルネットは深いカップのマウスピースでメローな(柔らかい)音色を奏でるので、
トランペットの「パンパカパーン!」といった輝かしい音色のイメージとは確かに異なります
そうなんです!
この「深いカップのマウスピース」
というところがミソです
コルネットは深いカップのマウスピースと、浅い(トランペットと同じくらいの)カップのマウスピースの、どちらを使うこともあります
例えばヤマハからはカップが深いタイプと浅いタイプ、両方のコルネットマウスピースが発売されてます
出てくる音はだいぶ違って、浅いカップのマウスピースで吹くと、トランペットに近い(というかほとんど変わらない)音色になります
20世紀前半のジャズ黎明期のアメリカでは、浅いカップのマウスピースでコルネットを演奏することが多かったようです
例えば目をつむって、
「深い(!)マウスピースの、トランペット」
と
「浅い(!)マウスピースの、コルネット」
の音を聞いてもらって、
「さて、どちらの音がコルネットでしょう??」
というクイズをやったら、ほとんどの人が深いマウスピースのトランペットの音を
「コルネット!」
と答えると思います
(深いカップのトランペットマウスピースはあまり使われませんが、あるにはあります)
つまりコルネットとトランペットの楽器の違いよりも、マウスピースのカップが深いか浅いかの方が、よっぽど多く音色に影響するわけです
(深いカップだと、少しだけ高い音が出しづらくなります)
トランペットをやってる人は、
「まぁ、そうやろうねえ…」
くらいに思うでしょうが、作曲家や編曲者、指揮者でも、トランペットとコルネットの違いを明確に深く理解できてる人は、そうそういません
コルネットによく使われる
「ショートタイプ」「ロングタイプ」という言葉も、勘違いされていたり混乱されてることが多いです
「マウスピースが長い(ロング)、短い(ショート)というのも、音色を決定づける要因だ」
みたいな文章を見たこともありますが、ちゃんちゃらおかしいです
カップを深くすると同じマウスピースの長さでもピッチ(音程)が下がってしまうのが主な理由で、マウスピースが短くなっている(短くせざるを得ない)のです
音程は管の長さだけで決まる、わけではない(!)ところが奥深いです
マウスピースの長い短いは、音色的にはほとんど無関係です
(ピッチ、イントネーション、抵抗感などのバランスを考慮して、長さが決まってきます)
音色を左右するカップが深いか浅いかは、覗いて見ないと見分けがつかないので、
外見上の差異を優先して「ショートタイプ」「ロングタイプ」というマウスピースの区別がされているのです
本来なら「ディープ(深い)タイプ」「シャロー(浅い)タイプ」と区別するべきかもしれません
または、イングリッシュ(英国)タイプと、アメリカン(米国)タイプとかの方が、わかりやすいかも
マウスピースじゃなくて、楽器(コルネット本体)の方のショート、ロングもあって、こちらはベルのお尻の部分がクルッと丸まっているかどうかが主な違いなので、これも音色にはあまり関係ありません
楽器の全長が少し長いので、トランペットに見た目がやや近いです
「ショート」「ロング」という言葉が、コルネット界隈の混乱、誤解の原因かもしれません
もっとヒドいのが、「円錐形」とか「円筒形」とかいう、わかりにくい言葉を使うことです
トランペットとコルネットの構造上の一番の違いは、巻きがクルっと1周多いことの他では、コルネットの方が楽器の入り口部分の管がほんのちょっと細くて、少しずつだんだん太くなって、出口(ベル)付近はトランペットよりもほんのちょっとだけ太い、という点です
入り口がちょっと細い、と言ってもマウスピースの先端部分で8mmと9mmくらいの差、
たった1mmくらいの違いです
ほんのちょっとずつ太くなる(ほぼ真っ直ぐの)管のことを「円錐」と言うのは、ちょっと無理があります
だんだん太くなるので「円錐形」ってことなんでしょうけど、トランペットも程度はちょっと違いますがだんだん太くなるので大して変わりませんし、
「円筒形」って言うほど全部が真っ直ぐでもないです
この2つの楽器の絵を見て
「なるほど円錐形と円筒形だ」
とは、誰も思わないです
「どこが円錐で、どこが円筒やねん!」
とツッこむのがフツーです
ほんのちょっとの管の太さの違いなので、この絵だとほとんど(というか、まったく!)わかりません
外見(管の巻き)の違いの方がよっぽど目につきます
元々の、ヴァルヴ(ピストン)が発明された200年前頃とか、バロック(ナチュラル)トランペット全盛期の300年前頃の、その楽器のルーツを踏まえすぎて、逆に混乱させてしまっています
現在のトランペットとコルネットは、構造的にも似ていて、出てくる音もそんなには違わないのです
ロマン派〜近代のフランスやロシアの作曲家は、コルネットとトランペットの両方を2〜3パートずつ、計4〜5パートを自分の曲の編成に入れることがありました
1830年のベルリオーズの「幻想交響曲」くらいから、L.ドリーブ、C.フランク、チャイコフスキーの作品、1905年のドビュッシーの「交響詩 海」、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ(1911年版)」くらいまででしょうか
「トランペットとコルネットの微妙な音色の違いを素晴らしく使い分けてる!」
なんて作曲家はあんまりいなくて、
「別に全部トランペット(4〜5人)でよくない?(沢尻エリカ)」
てな感じが多いです
(実際、コルネットのパートをトランペットで演奏することもよくあります)
1918年のストラヴィンスキーの「兵士の物語」や、1930年代のプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」「キージェ中尉」には、コルネットが単独でソロ楽器のように使われています
吹奏楽では楽譜にコルネットと書かれてあったり、トランペットと書かれてあったり、両方が書かれている曲もあります
日本の吹奏楽コンクールの課題曲や、アルフレッド・リードの作品でも、1980年代くらいまでは楽譜に「コルネット」と書かれている曲がありましたが、それ以降は「コルネット」と書かれている楽譜はほとんどなくなりました
学校の吹奏楽部などで使われる楽器も、コルネットよりもトランペットの方がだんだんと主流になっていったのです
「浅いマウスピースでコルネット吹いたらトランペットとほとんど同じ音なんでしょ?
だったらコルネット使う意味とかメリットってあるの?」
あるんです!
コルネットはくるっと管が1周多く巻かれているので、楽器を構えた時に手の位置が顔に少し近くなります
小中学生や体の小さい人には、だいぶ持ちやすく(吹きやすく)なるんです
特に小学生くらいだとトランペットの場合、ずーっと手を遠い位置に伸ばして構えてないといけなくて、腕の力もないのでツラそうです
なので以前はトランペットを始める前の導入的に、子供はコルネットで始めた方がいい
という意見も多かったのです
コルネットの方が息を入れたときに少しだけ抵抗感が多めで、
少ない息でも吹きやすい=子供でも吹きやすい、というのもあります
なのですが、コルネットとトランペットの両方を買ったり、学校で揃えたりするのは、金額的にも当然負担になるのもあって、
「最初からトランペットでよぐねえか?
どうせ(体も)おっきくなるし」
と徐々になってきて、現在に至る
てな雰囲気です
以上、コルネットとトランペットの違いの、世界一わかりやすいページになった、かな?(自画自賛)
なんだかコルネットの悪口みたいに聞こえたかもしれませんが、コルネットもコルネットの音もすごく好きです
(見た目丸っこくてカワイイし)
トランペット以外の楽器の人からは「あんまり違いがわからない」と言われがちなコルネットですが、演奏する方からすると音色も吹いた感じもトランペットとは全然違うコルネット、とも言えます
子供用の楽器、というわけではないのです
個人的にはちょい深めくらいのマウスピースで、ヴィブラートかけすぎないで絶妙にダークで奥行きのある音色を聴かせる、くらいでコルネットを演奏できると、すごく魅力的な楽器に思えます
このハンス・ガンシュのコルネットの演奏は、ブラスバンド嫌いの人でも感動するほど素晴らしいです
(5分くらいの曲なので、ぜひ聴いてみてください♪最後の歓声もスゴい)
スパッと引退して、今は楽器吹いてないそうです(もったいなさすぎー
長々と書いてしまいましたが、防府ウィンドシンフォニーではトランペットだろうがコルネットだろうが、ベルが45度上を向いたディジー・ガレスピーみたいな楽器だろうが、彫刻ゴリゴリの真っ赤でド派手な晩年のマイルス・デイヴィスみたいな楽器だろうが、どんな楽器で演奏していただいてもまったく問題ありません
珍しい楽器も大歓迎ですので、お気軽に見学にいらしてください
お待ちしてます♪